事業譲渡


 事業譲渡はM&Aで使われる手法の一つであり、文字通り会社の事業を譲渡することを指します。
 株式譲渡や合併といった他のM&A手法と違い、事業譲渡は会社内の事業のみを売買するため、 会社の独立性を保ったままM&Aを行うことができます。
 事業譲渡は主に組織再編で会社のノンコア事業や不採算部門を切り離す際に使われたり、 新事業を開拓する際にそのベースとなる設備などを手に入れる際に使われます。
 事業譲渡は株主総会が必要な手法ですが、株主の数が少ない、または株主が経営者しかいない という形式が多いという点から中小企業でよく使われる手法でもあります。
 また、事業譲渡の際に「事業を全て譲渡する」パターンと「事業の一部を譲渡する」パターン に分かれます。

事業譲渡額=譲渡資産時価+営業権


事業譲渡にかかる税金

 基本的に事業譲渡においては「買い手側は消費税」、「売り手は法人税」が発生します。 そもそも事業譲渡は事業という会社の資産を売買する行為であり、その中に課税資産 (有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、営業権など)が含まれている場合は消費税 が発生します。
 事業譲渡を用いて事業を譲渡した場合、売り手側に発生した売却益が法人税の課税対象に なります。
 この際の法人税の税率は地方法人税や法人住民税などを加味したうえで計算されるため、 大体30%になります。
また、事業譲渡にかかる税金は売買に直接かかわるもの以外で税金が発生するケースが あります。
 事業を譲受した会社が不動産名義を変更する際に発生する「登録免許税」「不動産取得税」 であり、事業譲渡が終わった後に発生します。
事業譲渡は相続税の評価対象となる資産の面で影響を及ぼします。
 そのため将来事業承継を行う際に、事業譲渡を行った会社は相続税に影響される可能性が あるわけです。


事業譲渡と株式譲渡の違い

 「事業譲渡とは会社の一部を売買するもの」「株式譲渡とは株式を通じて会社の経営権を 売買する」もの事業譲渡は売買であるため消費税や法人税が発生しますが、株式譲渡は 経営者という株主が株式を売却し、譲渡益を手にすることになるため、その株主に所得税が 発生する形になります。

メリット デメリット
事業譲渡 引き継ぐものを選べる

買い手側は引き継ぎたくない資産、契約をあらかじめ取り除いたうえで事業を譲受することができ、 売り手側は自社に残しておきたい従業員、契約を残しておいたまま事業を譲渡することができます
手続きがかなり面倒

事業主体が切り替わるため、その事業に関する契約や許認可が全て白紙に戻ってしまい、従業員の 雇用契約、取引先との契約、事業内容によっては許認可を改めて取り直す必要があります
株式譲渡 手続きが楽

契約関係や許認可などといった手続きを改めてやる必要がない。事実上、法律や行政の制約も受けない ため、事業譲渡より制限や面倒がなく、加えて発生する税金も事業譲渡などに比べて少なくすむことが多い
買収対象が選べない、株式評価

売り手側の会社が抱えている負債、公開されていない簿外債務、管理手間のかかる不要資産、経営上障害 になる可能性がある契約等、不都合なものも引き継がなければならなくなる。また、非上場株式であった 場合株価算定の手間がかかる


■売り手
事業譲渡 株式譲渡
税金 譲渡益に法人税(29%~42%)が課税される。 譲渡益に所得税(20%)が課税される。
手続き 契約のまき直しが必要で煩雑。 手続きが簡便。
その他 継続保有したい事業・資産を法人格ごと残すことができる。 基本的に全ての事業・資産を譲り渡すことになる。

譲渡される資産が課税資産であれば消費税が課されます。
資産内容
課税資産 有形固定資産(土地を除く)
無形固定資産
棚卸資産
営業権
ゴルフ会員権等
非課税資産 土地
有価証券
貸付金などの債権

■買手
事業譲渡 株式譲渡
税金 営業権は5年で償却でき、投資額に節税効果あり。
譲渡資産に不動産が含まれる場合には、不動産取得税・登録免許税が必要となる。
投資額に節税効果なし。
手続き 契約のまき直しが必要で煩雑。 手続きが簡便。
その他 必要な資産のみ選択的に承継できる。
簿外負債・偶発債務の承継を回避できる。
顧客・従業員の継承漏れが生じるリスクがある。
基本的に全ての事業・資産・負債・顧客・従業員を包括的に承継することになる。


のれん
のれんとは何かを定義すると、
「会社や事業の取得原価(買収額)と、その会社や事業が持っている資産負債の時価との差額」 です。

図にすると以下の通りです。
買収した時価純資産が60で、買収額が90であれば、のれんは差額の30ということになります。
のれん
のれんは上記のように「個別に評価することができない価値を、差額でざっくりと計上した資産」であり、 残念ながらのれん償却は損金算入(税金計算上費用にすること)ができません。


会計上の費用を税務上足し戻す
会計上、損益計算書でのれん償却を費用化しても、それは税金計算上で足し戻さなければなりません。 具体的には下図のような「税務調整」と呼ばれる計算が行われます。

のれん

上記では、損益計算書上の利益はゼロなので、一見税金は発生しないように見えます。しかし、 のれん償却が足し戻され、200の課税所得に対して税金が課されます。

買収側は営業権を無形固定資産として計上します。会計基準では、この営業権を減価償却資産 として償却します。税法上は耐用年数5年の定額法となります。



inserted by FC2 system